減算型フィルタ (Subtraction type of filter)


 当研究室では、歩行ロボットの研究を行なっています。 歩行ロボットにとって、現在の歩行状況を認識する上で 姿勢センサは重要なセンサの一つです。
 姿勢センサに限らず、世に存在するセンサに、多くの 性能(姿勢センサでいえばゼロ点が狂わないことや、 周波数応答範囲が広いこと、振動に強いことなど)を 同時にもとめることは難しく、必要な特性のうち、 何か一つが欠けている、ということは良くあることです。
 このような場合に、何種類かのセンサを組み合わせて、 足りない部分を補い合えば全体でいいものができる、 との考えに基づき、姿勢センサを組み合わせる研究が なされました。減算型フィルタはこの目的のため 江村・熊谷によって考案されました。

 センサの信号に関する特性は周波数に依存することが 多くあります。ゼロドリフトは低周波数域での 信号不良、応答性とは高周波数域での性能と みることができます。複数の信号を合成するには 周波数領域で信号を切替えればいいということになります。
 ここで、簡単のために、ある周波数を境に2つの信号を 切替える場合を考えます。信号SLから低い周波数域の 信号を、SHから高い周波数域の信号をとりだし、合成します。 このばあい、Fig.1 に示すようにローパスフィルタ、 ハイパスフィルタを用いていらない部分を除去してから 加算するという方法が知られています。切替える 周波数付近での両信号の周波数特性(被観測量と センサ信号の関係)が等しいとした場合、フィルタの 伝達関数には

という関係が要求されます。この式を満たすことで、 特性に凹凸を出すことなく、滑らかに切替えられます。
 このような式を満たすフィルタを作るのに1次ならば 容易に作れます。しかし、切替をシャープにしようとすると 高次のフィルタが必要となり、伝達関数の設計が面倒になり、 さらに、実際の回路におこせるかという制約も生じます。 そこで、式1を変形し

という形にします。この式より、ローパスフィルタは ハイパスフィルタと減算により作ることが出来ることが わかり、そうして作ったフィルタは必ず、式1を 満たします。これを減算型フィルタとよんでいます。 また、元にした方のフィルタを基本フィルタといいます。 これにより Fig.1 を変形して、 Fig.2 のようなブロック図を得ます。これにより、 鋭く切りたい方のフィルタを設計することで、 条件式を満たすフィルタ対が得られます。
 さらにブロック図を変形することで Fig.3 まで 持っていくことが可能です。これにより、 フィルタ自体も一つで済むことになります。 Fig.2 に従ってアナログフィルタを作ろうとすると、 コンデンサなどの誤差で条件式(式1)を満たさない ことがあり得ます。しかし、フィルタ自体が 一つになったので、その心配はなくなります。 また、フィルタが一つで済むので、アナログの時は 部品コストが半分、ディジタルでも計算時間の 半減等の利点があります。

 実際に伝達関数を考えてみると、一方をいくら 鋭くしても、ふつうのフィルタ設計ではもう一方は 一次にしかなりません。そこで、
  (3)
のように、冗長性を持たせた設計にすると、 両方のフィルタを鋭くすることが出来ます。
 いままで、ハイパスフィルタを基本フィルタに することを例にしてきましたが、実際には 逆にローパスを基本フィルタにすることも可能ですし、 バンドパス、バンドエリミネート等のフィルタも もちろん使用可能です。


応用先


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  kumagai@emura.mech.tohoku.ac.jp
で随時うけつけています。